Monday, August 02, 2010

「まにらで黄昏れ、酒を飲む」 その1

数年前、夏の終わり頃のある日、その頃俺はとある出版関連の制作会社でデザイナーをしていた。
いつも通り会社に行くと当時俺の先輩のサイトウさんという人がフィリピン行きの話をしていた。
何でも会社のデザイン制作現場を海外にも作れないか(人件費が日本よりかなり安く済むのでその分利益を出すのに有利だからという理由だった)という事でフィリピン行きの話を持ちかけられたらしかった。
サイトウさんに話を聞くと結構消極的だった、
「外国人にウチの仕事のやり方が出来る訳が無い。日本語の本しか扱ってないのにフィリピン人にどうやって作業させるのか!」
「それに俺は飛行機が死ぬ程嫌いなんだ!」
飛行機嫌いは関係ないんじゃないかと思ったが、それは言わずにおいた。

結局サイトウさんはそれから数日後の仕事の帰り、嫌々ながらも成田空港へ向かった。

サイトウさんがフィリピンへ行ってから数ヶ月ほどの間はいつも通りに仕事をしていた。
ディレクターが人員が減った事で時折愚痴をこぼしていたが、業務的には概ね問題が起こる事もなく日々を過ごしていた。

3ヶ月後、サイトウさんは帰ってきた。帰国前の噂では途中帰国予定だったのが会社側から一ヶ月滞在を延長され、酷くナーバスになっているとか色々良くない事も聞いて心配していたのだが、見たところ元気そうだった。
「フィリピンオフィスの話を本気でやるつもりなら全員の協力が無いと絶対に上手く行かない。」
と少々憮然とした感じで言っていた。

しかしながら上の方の話し合いでは全員の協力どころか「Sではダメだ他の者を行かせろ」といった話になってしまったらしく、他の者へ白羽の矢を立てることになったらしかった。
その白羽の矢がまさか自分にくるとはその時は考えてもいなかったし、「Sではダメだ」なんて話になった事を知らなかった俺は自分にその話が来た時「ヤリ甲斐がある仕事じゃないか」と思い快諾してしまった。
それからは今まで興味も無かったフィリピンという国の事を調べたり、現地入りしてからの仕事の為にアレコレ資料を準備したり、毎日忙しかった。

約1ヶ月後、フィリピン行きのフライトの為、仕事が終わると副社長の三田さんと車に乗ってホテルに向かった(お互い家が遠かったので、朝一番のフライトに乗る為には空港の近くで一泊しないと間に合わないのだ)。
その日の夕食は三田さんに最上階の鉄板焼きレストランでご馳走になった。そのとき食べたフィレステーキははっきりいってメチャクチャ美味かった。

翌日リムジンで空港へ向かいフィリピンエアに乗り、俺はフィリピンの首都マニラへ出発した。

つづく

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